【part6から続く】
「ね!おいしいでしょ!」・・・。
オレが飲むのを待ちかねたように、その男は言った。
オレは「なるほどね・・・」とつぶやき。
「珍しいものを飲ませてもらいました、ごちそうさま」と。
男に告げると、早々にそのBARを後にした・・・。
その後。しばらく経ってこのBARに再訪した時。
オレはバーテンダー氏にこの客のことをきいてみた。
どうやらオレが気遣うほどの常連ではなかったらしい。
ただウィスキーを楽しみ始めた若い人。
このオレの感は、あたっていたらしく。
「だとしたら、ああいう行為はたしなめて欲しい」と。
オレはバーテンダー氏にリクエストしてしまった・・・。
そう。してしまった、というのは。
「それはあなたがいけないんじゃない?
そういう行為はBARになじまないってバーテンダーさんじゃなく、
あなたぐらいの年令なら若い人に教えないとね」
この話をツレにした時にズバリ!と。
こう指摘され気づいたからだ。
バーテンダー氏が客を育み、客がバーテンダー氏を育む関係。
客同士もまた、経験や見識を尊重しながらお互いに育む関係。
これも古くから伝わるバー文化の一つ。
というか、酒場という文化の一つであった。
「いいか、酒の場は男を磨く場だ!」と。
大先輩からビールの継ぎ方、空のお銚子のあつかい方など。
酒の所作を教えられ、今のオレの礎となったことを思い出す。
その点、今夜。
オレとツレの目の前にいる若きバーテンダー氏は。
技術と共にバー文化もしっかり体現していた。
それは、この店のバックバーに飾られたマッチ。
1961年から続いていた隣町の今は亡きマイスター氏のBAR。
その店のオリジナル・マッチからも感じられた。
彼もまた、若かりし頃。
隣町のマイスター氏のBARに通っていた一人であった。
BARなど飲食業界に限らずどんな業界も。
人と人がつながることで、業界の良き文化や技術を広げ育んできている。
言い換えればどの業界もどんな会社も、その文化や技術のすべてが。
人と人がつながりカタチ作られているとも言えるだろう。
そしてプライベート、特にBARや酒場は。
まさに人と人のつながりだけで出来ている世界。
そんな同じ文化と薫りを身にまとうステキなヒトをエスコート。
まだギムレットには早すぎる夏の一夜。
♫ Summertime And the living is easy~♪♪
もう少しの間、となりいて。
騒がしい世情からオレを離れさせて欲しい・・・。
今宵もまた。そんな夢を見ながら。
「長いお別れ」ならぬ、
一夜の短い別れを惜しむように時を過ごそう。
【第2話 終了】