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3代目社長のつぶやき

設備屋もBARにいるpart5

コロナ前の昔の話・・・。
初夏と呼ぶには暑い夜。

老舗クラブが軒を並べ地元では有名な飲み屋街。
表通りから2人並んで歩くにはやっとの裏路地に入る。

妖しい得体のしれない看板が両側にひしめき合い、
日本語がたどたどしい女性たちがたむろしている。

いつもなら南方系の甘い匂いをさせながら。
何かと話かけてくる女性たち。

今夜は見定めるような視線を送りながらも、
ツレが醸し出す雰囲気に気おされたのか。

静かにオレたちを通してくれた。

シロウトの女性が一人で通るには、
勇気が試されるような裏路地の一角。

そんな風景に溶け込むように、
そのBARは佇(たたず)んでいた。

「いらっしゃいませ、お久しぶりです。」

狭い路地に面した和風のおもむき。
その引き戸を開けると落ち着いた声が出迎えてくれた。

店主である若きバーテンダー氏に、ツレは上手にニコリと微笑みながら。
オレはマネしようとしたが、結局は不器用な笑顔を浮かべただけで。

オレたちはいつものカウンターに身を滑り込ませると。
いつものように同じ一杯をオーダーした。

「モヒートを・・・。」

そう。オレとツレは夏ともなればモヒート中毒になる。

モヒートが評判と耳にすると銀座、六本木は言うに及ばす。
いろいろな街でバーホッパーを繰り返していた。

中にはグラスを派手に飾り付け、数十種類ものモヒートに
似て非なるカクテルをウリにしている店もあった。

またある著名なオーナー・バーデンダー氏のBARでは。
2杯目にモヒートをオーダーしたツレに。

留守を預かるサブ・バーテンダー氏が。

「ウチのモヒートはミントでなく銀座のBAR数店が共同して。
銀座のビルの屋上で育てたキューバ原産ハーブを使って・・・」

と語り始めたが。

オレたちはすでに、他の馴染みのBARで耳にしていた上に。
1杯目のジントニックに、ストレスを溜めていたオレは。

本来のモヒートがミントを使ってないくらい知っている、と。
サブ・バーテンダー氏の話を遮(さえ)ってしまった・・・。

その瞬間、年甲斐もなく余分なことを言ったな、と後悔したが。
となりのツレは表情一つ変えることもなく、黙ったままだった。

「伸びて欲しいと期待している人やお店には言うけれど・・・」

この時。こんなツレの口グセが、ふと頭に浮かんだが。
その日以来、オレとツレは・・・。

二度とこのBARのドアを開けることはなかった。

【part6へ続く】